量子物性学

相対性理論は量子状態計算において小さな補正として扱われていますが、量子状態計算のよりどころである量子力学は相対性理論と整合しないことが知られています。相対性理論と量子物理学が融合した理論として、場の量子論が研究されています。

多くの分野で場の量子論、特に量子電磁力学は量子力学に対する補正のように思われていますが、力学的変数からして違う異なる理論です。より正しい場の量子論により量子力学で発展してきた物性解析の概念を捉えなおすことにより新たな知見が得られます。

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教員

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瀬波 大土 ( Masato SENAMI )

瀬波 大土講師(工学研究科)

研究テーマ

量子論における物性の理解を目的として、場の理論や相対論的量子力学を用いて基礎的な研究を行っています。

連絡先

桂キャンパス Cクラスター C3棟 b1S11室
TEL: 075-383-3672
E-mail: senami@me

研究テーマ・開発の紹介

領域密度汎関数理論・量子エネルギー密度

【領域化学ポテンシャル非相等性原理】

  • Onsagerの局所平衡仮説をもとに、領域を隔てる界面を通してはたらく量子力学的相互作用を考慮した非平衡熱力学を定式化
  • 領域の領域電子数と領域電子エネルギーを定義し、領域間にはたらく量子力学的効果を表す新しい物理量を導入して、全系が化学平衡に到達した場合の領域電気化学ポテンシャル相互の関係を定式化(量子力学的質量作用の法則)
  • これにより、たとえ全系が化学平衡に到達したとしても、全系に広がる定在波のフェルミ準位と領域化学ポテンシャル、および、領域化学ポテンシャル同士はそれぞれ互いに等しくならないことを証明しました。

【QED(Quantum Electrodynamics)に基づく化学的相互作用の新しい描像】

通常、相対性理論は化学の分野で小さな補正としてのみとらえられてきましたが、そうではなく、相対性理論のよりどころである近接作用の観点から導き出されたQEDのハミルトニアンは、非相対論極限においてすら全く新しい化学的相互作用描像をあたえることを初めて明らかにしました。

その結果、全空間の積分値としてのエネルギーは従来ab initioハミルトニアンによるものと等しいが、化学的相互作用の局所的描像は全く新しいものであり、相対性理論に基づく正しい近接作用の観点から確固たる描像が得られ、従来の遠隔作用に基づく化学的相互作用の描像はことごとく塗り替えられます。

スピンドル構造の発見

図-1 スピンドル構造の発見:共有結合の引っ張り応力状態の可視化;電子のストレステンソルに基づく化学的相互作用の全く新しい局所的描像

【一般相対性理論に基づく電子スピントルクの新しい描像】

電子のストレステンソルの起源をアインシュタインの一般相対性理論に求めることにより、アインシュタインが発見した「時空の曲率が物体に働く重力を生み出す」、という測地線原理に加えて、「時空のねじれが電子スピンに働くトルクを生み出す」、という量子スピン渦原理を発見しました。

図-2 量子スピン渦原理の発見:一般相対性理論に基づく電子スピントルクの新 しい描像

図-2 量子スピン渦原理の発見:一般相対性理論に基づく電子スピントルクの新しい描像

【量子力学100年のミステリーがついに解けた!】

予知不能な『量子力学のミステリー(ファインマン曰く)』として知られる二重スリット現象はQEDにより時々刻々予言できる。そのカギは双対コーシー問題を解くことにあり、そのアルゴリズムがアルファ振動子理論により与えられることを発見しました。

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図-3 二重スリット現象のアルファ振動子理論:双対コーシー問題解法の発見に基づく量子力学100年のミステリーの解消

エレクトロマイグレーションのシミュレーション

エレクトロニクスデバイス特性を予測することは、高性能なデバイス材料を設計する上で不可欠となっています。計算機の進歩によって、第一原理計算によるデバイス材料の構造・物性解析や新規物質の予測は重要な研究手法として認識されるようになりましたが、実際の実験条件においてこれらのデバイス材料は電場や電流の影響を大きく受けており、その効果を考慮した電子状態を導出しなければなりません。

当研究室では外部電場や電流の効果を考慮する第一原理計算のプログラムコードを製作し、領域密度汎関数理論に基づく量子エネルギー密度を用いて各種デバイス材料結晶・表面や異種電子材料コンタクト界面の電子構造を明らかにするとともに、デバイス材料の量子設計・制御・信頼性の理論的指針を与えています。

エレクトロマイグレーションとは、強電流によって表面上やバルク中の原子が移動していく現象です。電子状態計算をもとにエレクトロマイグレーションを起こす原子核を波束に置き換えたシミュレーションを行い、波束の運動エネルギー密度・張力密度・有効電荷を新しく定義して、局所的に生じるストレスや電荷密度分布を議論しています。

 

Al(100)表面上のAl原子エレクトロマイグレーションモデル

図-4 Al(100)表面上のAl原子エレクトロマイグレーションモデルとその有効電荷

絶縁体薄膜の電子物性・信頼性予測

エレクトロニクスデバイスが高速化・微細化することに伴い、トランジスタのゲート絶縁膜のさらなる薄膜化が求められています。しかし、ゲート絶縁膜の薄膜化は経時絶縁破壊特性の低下を引き起こしてデバイスの信頼性確保を困難にするとともに、ストレス誘起リーク電流(SILC)の増加によってデバイス性能を大きく劣化させます。

絶縁破壊に至るまでの欠陥生成メカニズムとして、酸化膜内に取り込まれている水素が欠陥生成に関与することが知られており、その挙動を解明することが信頼性の高いゲート絶縁体薄膜を開発する上で不可欠となっています。

当研究室では、一般的なゲート絶縁膜材料であるSiO2の薄膜モデルや結晶構造について、外部電場存在下で酸化膜内に取り込まれた層間水素原子が電子状態に与える影響をバンド構造や量子エネルギー密度によって解析し、絶縁破壊のメカニズム解明に取り組んでいます。層間水素原子の存在はバンド構造に大きく影響し、これが絶縁破壊の一因になっていることが示されました。絶縁破壊に関与する層間水素原子のダイナミクスについても検討しています。
さらに、信頼性向上の鍵となるゲート絶縁体薄膜の窒化プロセスについてもそのメカニズムを研究しています。

層間水素原子存在下のSiO2薄膜モデル

図-5 層間水素原子存在下のSiO2薄膜モデルとそのバンド構造

高誘電体結晶・薄膜の誘電物性予測

SiO2を用いたゲート絶縁膜は、その薄膜化が物理的限界に近づいてきており、SiO2に代わる次世代ゲート絶縁膜材料の開発が急務となっています。トランジスタのゲートリーク電流を増加させずにトランジスタの特性を向上させることができる材料として、高誘電率(high-k)金属酸化物が注目されており、多くの大学・企業でhigh-kゲート絶縁膜の実用化をめざした実験的研究がおこなわれています。

このような新規の高性能デバイスを開発する上で、デバイス材料の結晶や薄膜の物性、とりわけhigh-k材料については誘電物性を予め理論的に予測することは、デバイス設計の指針を与える意味できわめて重要です。

当研究室では代表的なhigh-k材料であるZrO2、HfO2、およびこれらのシリケート化合物、さらにGd等のランタノイド酸化物について、第一原理電子状態計算を基に誘電物性を導出する研究をおこなっています。外部電場下の電子状態を求める計算手法や量子エネルギー密度による解析によってデバイスにおける原子間結合・分極の様子や微視的な電子ストレスの描像が明らかになり、第一原理電子状態計算により得られた波動関数から結晶状態や薄膜状態の誘電率が摂動論や乱雑位相近似(RPA)を用いて導かれます。

実験的研究グループとの連携による情報交換を通じて、理論のさらなる発展・改良を進めています。

ZrO2およびHfO2立方晶結晶における外部電場応答の差電子密度表示

図-6 ZrO2およびHfO2立方晶結晶における外部電場応答の差電子密度表示