量子物性学

この世界の法則を理解するというのはどのようなことでしょうか。世界全体から興味ある部分を取り出したときに、その部分は、世界の何と同じであり、何を含んでいると、どのように言えるのでしょうか。私たちの研究室では、このような観点から、あるがままの自然を数理的、物理的なモデルとしてどのように表現し、それによって何を捨て、何を理解できるようになるのかを常に考え、新しい数理・物理学の理論を構築し、工学への展開に取り組んでいます。

教員

* メールアドレスの後ろに kyoto-u.ac.jp を補ってください。

井上 康博 ( Yasuhiro INOUE )

井上 康博教授(工学研究所)

研究テーマ

遺伝、発生、分化などの様々な時空間スケールにおける生きものらしさは、いったいどのように生まれるのでしょうか。生きものらしさが現れる原理は、生物を構成する個々の物質要素の詳細よりも、それらの作り出すダイナミクスやその状態に内在されていると考えています。そのような生命的なダイナミクスを表す新しい数理モデルの研究を進めています。

連絡先

桂キャンパス Cクラスター C3棟 b1S09室
TEL: 075-383-3670
E-mail: inoue.yasuhiro.4n@

瀬波 大土 ( Masato SENAMI )

瀬波 大土講師(工学研究科)

研究テーマ

相対性理論は量子状態計算において小さな補正として扱われていますが、量子状態計算のよりどころである量子力学は相対性理論と整合しないことが知られています。相対性理論と量子物理学が融合した理論として、場の量子論が研究されています。より正しい場の量子論に基づいて物性の理解を進めるため、量子力学で発展してきた物性解析の概念を場の量子論で捉えなおす基礎的な研究を行っています。

連絡先

桂キャンパス Cクラスター C3棟 b1S10室
TEL: 075-383-3671
E-mail: senami@me.

研究テーマ・開発の紹介

複雑適応システムの構造と発展

 生命システムのように、環境とシステムが曖昧な重なりのもとに、環境変化に対して適応的に構造を複雑化し、機能を創成するメカニズムとはどのようなものでしょうか。ウイルスの内在化による分子進化、細胞の集まりによる個体発生、ヒトの社会性行動の創発、人工システムでは、製品の内部構造の複雑化と多様な機能の創出、これらは無関係に見えて、同じ仕組みのもとに生じていると考えています。このような複雑適応システムの構造と発展について、情報幾何学をもとにした新しい研究を進めています。

生命システムの階層性と制御ネットワーク

 個体発生は、遺伝子の発現が時間・空間的に適切に行われることで生じます。しかしながら、最終的に身体サイズになる空間スケールまでに、たった数十マイクロメートルの細胞のなかの、さらに小さな核内にあるDNAによって、どのように個体発生は制御されているのでしょうか。ここには、遺伝子制御ネットワーク、タンパク質相互作用ネットワーク、細胞間相互作用ネットワークの異なるスケールにおける制御ネットワークが、それぞれのスケールにおけるダイナミクスを制御するのみならず、異なるスケールに跨る制御を実現するために、個体発生の途中における器官や組織の形状を遺伝子発現の状態に互いにフィードバックするメカニズムがあると考えられています。その候補の1つには、力学的な場がシグナルとして働く重要な役割があることがわかってきました。

アクティブマター

 ブラウン運動ではない一方向性の運動が生じる分子や物体をアクティブマターと呼んでいます。細胞内には、アクティブマターが要素となった巨大なアクティブマターシステムが存在しており、細胞の様々な運動の”源”となっています。さらに、このような細胞の多くは、周りの細胞と相互作用して、集団的に協調した運動を示します。アクティブマターは、どのようにして動くことが可能となるのでしょうか、また、スケールを超えて協調した運動が生じるためのメカニズムとはどのようなものでしょうか。この問題は、生物に限りません。複数のロボットによる協調的な仕事や自動運転機能のある自動車が多数集まったときに生じる機能(問題)を考える上で重要となります。非平衡系の物理学を用い、階層性を捉えた機能発現の研究を行っています。

場の量子論に基づき、応用物理・量子化学の基礎概念を考えなおす

量子力学は今や常識である相対性理論と矛盾なくは定義できず、量子論と相対性理論を融合させた上位理論である場の量子論が知られています。本研究ではこの場の量子論に基づいて、これまで量子力学に基づいて解析されてきた量子現象を再定義する研究を行っています。

【場の量子論におけるスピンの運動方程式】

 場の量子論に基づくと、電子スピンの方程式に局所的な新しいトルク項であるツェータ力が現れることが知られています。これにより、定常状態では空間の各点においてトルクが釣り合う描像が得られます。量子力学では、定常状態においても空間全体を積分するとトルクは0となるが各点各点では0となっていなかったことと異なり、場の量子論では局所的にも正しいスピンダイナミクスを予言できます。

 定常状態におけるスピントルクの釣り合いや、電気伝導現象におけるスピンホール効果でのスピントルクについて研究を行っています。

【電気伝導現象の量子論的理解を目指して】

 電気伝導現象は基本的な現象ですが、量子論的に完全に理解できているわけではありません。例えば、電圧による加速は導電体内での散乱と釣り合っていると考えられていますが、これを実証できているわけではなく、現象論的なパラメータである緩和時間を用いて定式化されています。

 場の量子論ではこの電圧による加速がテンション密度という量と釣り合っていると考えられています。この考え方に基づいて、量子電気伝導現象を捉えなおす研究を行っています。特に、抵抗の起源をテンションとするとどのような描像が得られるのか研究を進めています。

【QED(Quantum Electrodynamics)に基づく化学的相互作用の新しい描像】

 場の量子論では、局所的な物理量による解析が確立されてきております。例えば、局所的なエネルギーの分布や電子密度から化学反応の新たな指標を提案したり、場の量子論に基づいた化学結合のから新たな分類方法の提案を行っています。

自然界の鏡像異性体過剰の素粒子理論からの解明

 自然界の鏡像異性体過剰の謎(ホモキラリティ)の解明のために、これまで見落とされていた鏡像異性体分子中の電子のカイラリティの効果を研究しています。自然界の生体分子には鏡像異性体のL体、D体のうち片方しか存在せず、この理由については未だにわかっていませんが、以下のような過程を経たと広く考えられています。
(1)最初に何らかの鏡像異性体の均衡の破れが生じる。
(2)その小さな鏡像異性体の過剰が不斉増幅機構により大きな鏡像体過剰率へと増幅される。
(3)最後にその増幅された分子の相互作用等により、別の分子に大きな鏡像体過剰率を与える。
この最初の均衡の破れがどのように生じたかは解明されておらず、星間の円偏光輻射により生じたL体のアミノ酸過剰が太陽系生成時に取り込まれた説など様々な提案が議論されています。

本研究室ではこれに新たな可能性を提案しています。
 電子にもスピンと運動量の向きにより「左手系」の電子と「右手系」の電子があり、電子のカイラリティが定義されています。我々の研究室は、鏡像異性体分子は電子のカイラリティの非対称性を持ち、鏡像異性体間でその値が反対であることを発見しました。実は、このカイラリティにより電子は弱い相互作用という相互作用に対する反応性が変わってきます。弱い相互作用は自然界の4つの相互作用のうちの一つで空間反転対称性を持たない相互作用です。左手系の電子は弱い相互作用の反応をしますが、右手系の電子は弱い相互作用をしません。このように電子のカイラリティにより弱い相互作用への反応が異なります。スピン軌道相互作用を起源として鏡像異性体ではL体とD体で分子全体の電子の総数は同じでも、左手系電子と右手系電子の割合、すなわちカイラリティが異なることは注目されてきませんでした。

 この電子カイラリティの非対称性による弱い相互作用の反応率の差が、自然界にどの程度の鏡像異性体の過剰を生成しうるのか定量的に調べています。
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